人気番組の無料ネット配信に取り組む米国大手ネットワーク

今シーズン、米国テレビネットワークは数多くの番組を自社Webサイト上で無料配信しているよというお話。まぁ、随分前のお話になってしまうのだけれども、NBC Directのような試みも紹介したことだし、ちょっと見てみようよというところです。確かに米国においても、このようなネットワーク各局の試みはようやく、という感じもあるのだけれども、それでも時間ギリギリで追いついた、というところだろうか。インターネットとテレビの融合、というのは送り手としても受けてとしてもまだまだ先のことになるのだろうし、またそれは一部融合という形になるのかもしれないけれども、そのような方向に向けて動き出さないことには、「得られていたであろう利益」を失うことになるのではないかしらね。海賊行為に対しては、そのような利益が失われていることを声高に叫ぶのにね。

原典:The New York Times
原題:Networks Start to Offer TV on the Web
著者:David Pogue
日付:October 18, 2007
URL:http://www.nytimes.com/2007/10/18/technology/
circuits/18pogue.html?_r=2&oref=slogin&oref=slogin

MusicとTVはゆったりカヌーで川下り、突然、Musicは耳をつんざくばかりの轟きを聞きます。「助けて!何が起こってるの?」-でも、遅すぎたのです。カヌーはインターネットの滝に落ち込みました。そして、Musicはさかさまに泡立つ渦に飲み込まれていきました。

そのほんの少し後に続いていたTVは、Misicの運命を避けることにしました。「僕は流れに乗るんだ、戦いやしないよ」とテレビは誓いました。ほんのわずかな時間で、TVはその運命を避けるため、知恵と力の全てを注ぎました。

それが第一章の終わり。

なかなか面白い物語の始まり。本当はここにMoiveもいるんだけど、とりあえずそれは突っ込まないほうがいいのかしら?

とにもかくにも、この物語の第二章がどうなっていくのかは誰もわかってはいない。ただ、年を追うごとにネットワークのテレビを視聴している人々はますます減っているというのは確からしい。ただ、その状況を打破するために、そしてMusicの二の舞にならないために、TVは今年最初の反撃を開始した。

ABC、CBS、NBC、FOX、CWといったネットワーク各社は番組のショートバージョンのクリップやフルバージョンの番組さえ視聴を可能にし始めている。それらネットワークは放送後の翌朝には最新のエピソードをWebで公開している。

もちろん、iTunesなどで、そのようなコンテンツを有料配信しているところも多いが、その一方でそれを気に食わないネットワークもいる。たとえばAppleの提示してくる条件を批判し、12月にはiTunesから同社コンテンツを引き上げるとしている。

では、ネットワークのWebサイトでテレビを見るということはどのようなものになっていくのだろうか?

まず、ブロードバンド接続を持っていれば、高画質高音質のビデオが、オンデマンドで視聴できる。このような番組の提供は、見逃し需要にもマッチしており、ABCの調査によると、77%のオンライン視聴者が見逃したテレビをそこで見ているのだという。もちろん、スキップできない広告も含まれているのだけれども、通常放送されている番組に比べ、オンラインでの広告は短めになっている。それぞれのブレークで1つ30秒のCMが提示される。ただ、その間は電子メールをチェックするなり、CMを眺めるなり、ニュースを読むなりすることも可能だ。そうなると、このようなコンテンツに挿入されるCMは音で勝負すべきなのかもしれないね。

それぞれのネットワークのWebサイト上での配信を見てみよう。

ABCは、17の人気番組をオンラインで提供している。 “Dancing With the Stars,” “Desperate Housewives,” “Lost,” “Grey's Anatomy,” “Ugly Betty”などなど。そして、回線とPCパワーが許せば、6つの番組をHD画質で視聴することができる。各番組は4つのCMブレークがあり、スキップすることはできない(チャプタースキップしても次のチャプターを見る前にCMが流れるらしい)。ただ、有料会員になれば、チャプター間を自由に行き来することができるとのこと。オンラインでの配信は、1つの広告主がスポンサーをつとめており、広告はインタラクティブなものとなっているようだ。

CBSは、22の番組を提供している。“Survivor,” “Big Brother,” “CSI,” “How I Met Your Mother”などなど。視聴の際には、チャプターす切符をすることができないので、最初から最後まで視聴しなければならない。また、CBSはコンテンツを比較的オープンにしており、同一のコンテンツがiTunes、Joost、AOLでも視聴することができる。

NBCは、13の番組を提供している。他のネットワークに比べ少なめだが、今後増やしていくのだという。“The Office,” “30 Rock” “Heroes,”などなど。番組の開始前、通常放送と同じCMブレーク、そして番組終了後それぞれに1つ2つの広告が挿入される。

FOXは、現在ベータ版にあるが、“The Simpsons,” “24”など15の番組を提供している。FOXもABC同様にコンテンツのスキップが可能なようだ。広告は番組の最初と、通常のCMブレークにて1回15-25秒ほど表示される。また、ブラウザ内のテレビスクリーンのそばにも広告が表示される。

このような試みは、現在のところ、軽快で、クリアで、最新で、合法的で、無料のオンラインTVエピソードを提供するという点で、非常に素晴らしい。ただ、このような展開に対して、危惧されるところもあるとN.Y.Timesは指摘している。

第一に、選択肢が少ない。それぞれのネットワークが提供するコンテンツは、彼らの所有してるもののほんの一部であり、またそれらはほんの2,3週分しか利用できない。そのようなカタログの出し惜しみとも取れる状況は、結局はBitTorrentのようなサービスにユーザを奪われてしまうことになりかねない。

第二に、番組をダウンロードできない。これはストリーミングのみの提供に限られており、保存したり、iPodに入れたり、DVDを作成することはできない。ただ、先日お伝えしたように、NBCはダウンロードでの番組の提供を開始しており、徐々にではあるがユーザによってより利便性の高い方向にシフトしているとも思われる。

最後に、最も大きな問題として、大抵の人はPCスクリーン上でTVを見たくはないということ。もちろん、無線、有線を駆使してTVで視聴することもできるのだが、それはやはり面倒なことだろう。テレビとインターネットの融合などということが叫ばれてから久しいが、そのような状況に近づいているとも思いがたい。。

換言すると、無料のオンラインエピソードはインターネットによって押し流されてしまうことを避けるTVネットワークによる合理的な試みなのだろう。しかし、それはTVを溺れさせないでいるために十分なものだろうか?その章はいまだ描かれてはいない。

個人的にもう1つ加えるとすれば、米国以外では見れないということも、海賊行為への需要を高める一因となり続けると思うけれどもね。もちろん、致し方のない部分もあるのだろうけれど。

当然、できる範囲で歩を進めている、というところなのだろうけれど、それでもこれまでと比べれは大きな前進を続けていると思える。確かにWebに乗り出すかどうかということは、コンテンツ産業にとって賭けのような部分もあるのだろうけれども、人々にとってインターネットというメディアはますます重要度を増しており、そのメディアを利用しないということは、そこで得られるであろう利益を失っていることになる。「賭け」というのは、既存の放送や物理媒体への経済的な影響が考えられなくもない、ということ。しかし一方で、そのような放送や物理媒体が今後これまでどおり安定しているか、ということはわかりようもないわけで、インターネットを活用しないこともまた、利益を失っていると考えられなくもない。賭けの要素が含まれていることは否定しないが、であれば、既存のメディアへの負の影響を最小限に抑えつつ、Webから得られる利益を最大限にするよう努力し、実現することが必要になるだろう。お膳立てが整ってから、などとのんきなことをいってられる状況にないのにね。

今後、インターネットが絶対的、相対的な重要度をますます増してきたときには、嫌でも乗り出さなければならない。ただ、その後に及んで乗り出したとしても、大方の反応は、「満を持して」ではなく「ようやく時代に追いついたか」というものだろう。しかも、嫌々乗り出した程度であれば、誰の目から見てもしょぼいサービスだといわれることは間違いない。やるなら野心的に乗り出さなきゃね。

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