WinMXとかWinnyとか、日本ではろくな扱いを受けていないP2Pですが、海外ではけっこう真面目に議論されてるんですよというブログ。
BitTorrent Inc.は、来月はじめにも「Letters from Iwo Jima」や「24」などの人気のテレビ番組などを広告ベースの無料ストリーミングビデオとして提供を開始するみたいだよというお話。これまでのところ、広告ベースでのオンデマンドストリーミング配信は、Joost、Babelgum、VeohTVなどでも行われているが、BitTorrent
Inc.もそれに参入することになるようだ。
もちろん、この展開はBitTorrent.comでの配信による利益にも絡むお話なのだろうが、BitTorrent Inc.としてはそれ以上に、BitTorrentを利用した技術ライセンス販売の拡大ということも狙っているのだろう。たとえば、YouTubeなどのビデオ共有サイトではトラフィックの問題が悩みの種となっているだろうけれど、P2P技術を利用したビデオストリーミングが可能になれば、その負担はある程度軽減する。BitTorrent
Inc.はBitTorrent.comにおいて配信ビジネスを行ってはいるが、以前には、その競合他社に対してもストリーミング技術のライセンス提供を行っていく方針であることを明らかにしている。Ashwin
Navinの名刺の裏には「All Together Now」と書かれているそうな。
原典:Mercury News
原題:BitTorrent offering may reshape TV
著者:Troy Wolverton
日付:07/31/2007
URL:http://origin.mercurynews.com/breakingnews/ci_6511271?nclick_check=1
これまで、iTunesなどで提供されてきたビデオ配信サービスでは、お金を払ったにもかかわらず、数十分ときには1時間もダウンロードに時間がかかるなどということもざらにあったが、BitTorrentでは無料でしかもすぐに視聴できることになる。BitTorrent Inc.はこれまで、そのプロトコルをストリーミングにも活かすための開発を続けてきたが、それをついにリリースするときがきたということだろう。
しかし、BitTorrentはこのサービスの開始に先立ち、それほど大々的なスタートを考えているわけではないようだ。同社は、そのトップ10タイトルを持ってサービスを開始する予定しているらしく、おそらく最初はベータサービスになるのだろう。第3四半期までは公式なローンチは計画してはいないようだ。ただ、最終的なプランとして、10,000を超えるビデオライブラリを目指しているらしい。
それに際して、BitTorrent Inc.は、webページ内にエンベッドされたFlashプレイヤーで、ビデオ内に広告を取り込む方法を実験している。さらに、そのビデオをダウンロード購入するように促す広告や、ビデオの前後、そして途中での広告提示、更には電子透かしの埋め込みなどを計画している。Webページ内での表示、というのはなかなか興味深い。Joostやその他の競合しそうなP2Pオンデマンド配信サービスの多くは、専用プレイヤーをインストールさせるのに対して、BitTorrentはWebページ上での配信を行う、という比較的ユーザにとってハードルの低いプラットフォームでの提供を考えている、ということなのかな。なかなか素晴らしい。
BitTorrnetのようなインターネットベースのビデオ配信サービスは、既存のケーブルテレビ、衛星テレビサービスと相補的であり、これらのサービスに加入していない人達へのアピールとなるだろうとMercury Newsでは述べている。しかし、一部のアナリストは、それらのサービスと相補的ではなく、代価的になるのではないか、という。
「従来の放送インフラが、オンデマンドの(インターネット)インフラに取って代わられるのは、回避不可能でしょう。」と、メディア・テクノロジー企業のコンサルタント会社Radar ResearchのマネージングパートナーAram Sinnreichは言う。
また、最近のビデオストリーミングサービスの展開はホットになっており、宅配レンタルDVDのNetflixも今年初め、PCへの映画のストリーミングサービス提供を開始している。また、サンタクララのVuduも、PCではないがセットトップボックスを利用して映画コンテンツの購入やレンタルを可能にしている。一方、主要ネットワークのABCやNBCは自社webサイトにおいて、彼らの番組の最新エピソードをストリーミングで提供している。
このようなビデオストリーミングサービスは、BitTorrentやAzureus、AppleのiTunes、Akimboの提供するこれまでのビデオダウンロードサービスと比べて、何が優れているのか。それは、ストリーミングビデオが即座に再生されるということだろう。一方のダウンロードサービスは全てのデータが保存されるまでコンテンツを視聴することができない。
さらに、これらのインターネットベースのビデオサービスは、ケーブルテレビや衛星テレビにはなしえないもの-つまり、ワンタッチで大量のコンテンツに即座にアクセスできるサービスを提供すると約束する。しかし、ケーブルテレビや衛星テレビを解約するのは気が早い。約束は未だ実現してはいない。インターネットベースのビデオサービスの最大の障壁は、PCを超えてリビングの大画面に映画を送ることである。Apple TVやその他の同様の製品はその隙間を埋めるものではあるが、そのPCと他の家電を繋ぐホームネットワーク技術の構築はまだまだ難しく、さらにTVでの視聴に耐えうるほどの高品質、高解像度での配信のための帯域幅は十分ではない。
更なる障壁としては、コンテンツのライセンスがある。望むべき世界としては、これまでに生産されたあらゆるコンテンツを見たいときにはいつでも視聴できる、という環境だろうが、まだまだそれには程遠い状況にある。多くのコンテンツホルダーは、いつ、どこで、どの映画やテレビ番組が視聴されるかを完全なコントロール下におくためのルールを振りかざしている。リサーチ会社Gartnerの産業アナリストMike MacGuireは、インターネット配信ビデオがその約束を果たせるかどうかの「大半」は、「ライセンスと価格設定にかかっている」という。
確かにオンデマンドでの配信には障害があるが、個人的にはその2つの障壁がうまく打ち消しあうようにも思える。まず、第一の理由、つまり品質や解像度の問題からTVでの視聴の脅威にはなりがたい、と考えれられる。となれば、その環境はPCでの視聴に限られることにもなる。もちろん、それは技術やインフラの改善によって、より高品質、高解像度の配信が可能になるのだろうが、現状では難しい。そう、現状こそが、環境をコントロールしたいコンテンツホルダーにとって、その可能性を試す、最適なときなのだと考えられる。もちろん、現在は拒否反応の方が先立ってしまうのだろうが、それでも今こそ試しておくべきときだとも思える。今を逃せば、インターネットベースのコンテンツ配信は、他のメディアの脅威にもなりうるのだから。
それを示すものではないだろうが、米ケーブルテレビのComcastのスポークスマン、Andrew Johnsonは、同社がインターネット配信ビデオを脅威とは見ていないと語る。多くのケーブル企業は、既に顧客の家庭にブロードバンド回線を提供しており、たとえ顧客がケーブルテレビの利用を止めたとしても、その役割の重要さは変わらない、しかし、現実的な人々のテレビ習慣を考えるとそれも考えにくい、とJohnsonはいう。
「多くの人はこれからも自宅のフラットテレビをつけ、そこで番組を探すでしょう。それはまさしく今現在、消費者がしていることです。」と彼は言う。
そうなると、インターネット配信は誰の敵?という疑問が湧いてくる。Joostはしばしばテレビキラーだといわれる。確かに素晴らしいコンテンツがたくさんあり、それをオンデマンドで、インターネットに繋がっていさえすればどこでも視聴することができる。しかし、リビングにいる人は、テレビを見るだろう。たとえ、そこでJoostが視聴可能でも。
Mark Cubanではないが、現状では、オンラインコンテンツをテレビで見るため際には、HD画質どころかDVD画質、通常の地上波以下の画質だといわざるを得ないし、テレビに出力するためのネットワークもプラットフォームもそれほど一般的ともいいがたい。となると、少なくともテレビと敵対する関係にある、ともいいがたい。
ではレンタルビデオ、セルビデオはどうだろうか。これも画質や音声の問題があるだろう。ISOでダウンロードすれば画質の問題はないだろう、と考えるのはP2Pファイル共有ユーザくらいなもので、一般にはISOでダウンロードさせることはないだろう。ましてや、DVDライティングなどは確実に認めないだろう。ストリーミングで行っても、DVD画質での配信となるとやはりその安定性が問題になり、現実的ではない。如何にダウンロードやストリーミングが可能になっても、そこまで競合するものとは考えにくい。特に、ストリーミングの場合は、YouTubeライクなFlashプレイヤー内での表示になるわけで、そこまで他のメディアとの競合というのは考えにくい。
じゃあ、何の敵なの?と考えてしまう。まぁ、考えられる1つの答えとしては、全てのコンテンツに競合する、という感じだろうか。何かと比較するのは非常に考えるのに役立つが、それぞれに特性の異なるものである以上、住み分けは可能だと思われる。ストリーミングの場合、オンデマンドという点で有利であっても、現状では画質の粗さやテレビでの視聴ができないというビハインドがある。とすれば、それぞれのユースにあった利用がなされると考えるのが妥当だろう。しかし、全てのコンテンツと競合する、と考えたのは、消費者の時間、という観点からである。消費者の持つ資源はお金の時間である。お金を必要としないコンテンツには比較的、そのコストを考慮せずに利用する傾向があるだろう(逆に言えば、お金がかかるから限度があるということ)。ニコニコ動画なども時間毎に課金されていればここまでにはなっていない。しかし、そのようにして時間が消費されれば、他のコンテンツに費やす時間は必然的に減少する。消費者にとって時間にも限りはある。
広告モデルによる配信という既存のビジネスモデルを、インターネット配信という新たしい分野に持ち込むこと、ある意味ではそれが新しいという不思議な展開が見られているが、何にしても、消費者が無料で多くのコンテンツが楽しめるようになる、というのは嬉しい限りだ。
ただ、おそらくはこのような配信形態は米国オンリーになるのだろう。JoostやABCのコンテンツも米国外では視聴できない(米国外での放送スケジュールを考慮しているのだろうが)ものも多く、インターネットは世界を繋ぐなどといっても国境の壁は存在するのだねぇ(もちろん、回避する術もあるのだろうけど)。
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