WinMXとかWinnyとか、日本ではろくな扱いを受けていないP2Pですが、海外ではけっこう真面目に議論されてるんですよというブログ。
違法ファイル共有ネットワーク上で人気の楽曲というのは、既にヒットしているものもあれば、そうでないものもある。その時点ではヒットしていなくても、その可能性のある楽曲がより多く共有されると考えることはそれほど間違ったことではないだろう。そのような考えに基づき、米国のとあるLAベースのラジオ局が、ファイル共有ネットワーク上で違法にやり取りされる楽曲のデータを収集し、それを元にラジオ局が選曲に利用するためのデータベースとして提供を始めているよ、というお話。これまでもリスナーのリクエストに応じて選曲を行ってきたものの、その多くは既に人気のある楽曲であることが多い。一方で、リクエストは少ないが、ダウンロードの人気は高いという曲を選曲することで、受動的なリスナーに対してアピールすることができるとも考えられる。
原典:The Wall Street Journal
原題:Pirated Music Helps Radio Develop Playlists
著者:SARAH MCBRIDE
日付:July 12, 2007
URL:http://online.wsj.com/article/SB118420443945664247.html
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WSJによると、今年初め、Clear Channel Communication Inc.が運営するPremiere Radio Networksは、違法ファイル共有ネットワーク内でもっともダウンロードされている楽曲のデータを利用したマーケティングを開始したという。その目的は、ラジオ局が流すより効果的なプレイリスト作成、である。。
その理由は至極合理的なもので、より多くダウンロードされている人気の楽曲は、ラジオでも多くのリスナーの人気を獲得することができる、というもの。それによって、ラジオ局は人気を高め、広告収入を増すかもしれないう。WSJは、ラジオでの放送がレコードセールスに大きな影響を及ぼすことを考えると、レコードレーベルにとってもメリットがかもしれない、と述べている。
このPremiere Radio Networksのマーケティング部門Mediabaseは、ファイル共有調査サービスベンチャーのBigCampagne LLCと共同してマーケティングを行っている。BigChanpagneがデータを収集し、10名のPremiereの営業スタッフがそれをまとめ、他の企業やラジオ局に提供する。
このマーケティングデータは徐々にではあるが、影響力を持ち始めている。たとえば、Emmis Comminications CorpのPower 106というヒップホップ専門のラジオ局。同局において、Hueyの『Pop, Lock adn Drop It』は、4月の時点ではそれほどかけられていなかったし、リスナーからのリクエストも少なかった。しかし、BigChampagneのデータでは、その曲がファイル共有ネットワーク内では大人気であることが示されていた。そこで、同局のディレクターEmmanuel "E-man" Coquiaはそのデータに従い、この曲をパワープレイすることにした。
確かに違法ファイル共有は問題ではあるのだけれども、このような動きはファイル共有を単に邪魔なものとして抑制されるだけのものではないことを示している。PremiereのMediabase社長のRich Meyerは「それは、今この時点での現実です」といい、BigChampagneの営業マーケティング統括部長のJoe Fleischerは、違法に音楽をダウンロードすることと、そのダウンロードされている楽曲の傾向に対する洞察は別の問題であるという。
ダウンロードランキングだけを作りたいのであれば、iTunesなどのデータだけで十分ではないか、と思う人達もいるかもしれない。しかしBigChampaigneは、ファイル共有ネットワークからのデータ以外にも、iTunesといったサイトで合法的に購入されている楽曲のデータも収集してはいるが、それはダウンロードのわずかな一側面に過ぎないとも主張する。
先述したEmmisのラジオ部門社長のRick Cummingsは、ダウンロード情報がどの曲をかけるかを知るための1つのツールだという。今のところは、これまでの『call-out』リサーチとして知られる電話でのリクエストほどの影響力は持たないかもしれないが、いくつかの点でダウンロードデータの利用は、「調査の主要な方法になりつつある」という。
それは、受動的な部分に関しては、「call-out」リサーチに頼ることが難しいためである。この手法を用いている限りにおいては、能動的なリクエストには対応できるものの、それはおおよそ人気のある楽曲に限られることになる。つまり、既に人気のある楽曲へのリクエストは数多くなされて反映されやすい一方で、これから人気が出てきそうな、それほど知られてはいない楽曲へのリクエストは相対的に少なくなる。さらに、ラジオリスナーはそれほど積極的にリクエストの参加することのない、受動的なリスナー層が大半を占める。一方で、ファイル共有ユーザは、相対的に音楽ファンの傾向が強く、一般的に新曲への反応が早い。
ただ、ダウンローダーのテイストだけでプレイリストを作成することは、受動的なリスナーを蚊帳の外においてしまうことにもなりかねないと、Cummingsはいう。それが媒体を超えて有効かどうかはなかなか判断の難しいものでもある。
その点について、MadiabaseのRich Mayerは、ラジオ局がその楽曲の放送を増やすことで、その楽曲のダウンロードが増加することもある、と指摘する。Shop Boyzの『Party Like a Rockster』のケースでは、『Popm Lock and Drop It』と同様にダウンロードは多いものの、電話でのリクエストはそれほどなかった。しかし、Power 106はMadiabaseのデータに基づき、エアプレイの回数を増やしたところ、それに伴って電話でのリクエストが増加したという。そして、(そのラジオ局の地域での)ダウンロード数も増加した。
もちろん、もともとリクエストの多い曲は、よりダウンロードされる傾向にあるのだろうけれども、少なくともリクエストのない曲であっても、どれくらいダウンロードされているか、というのを人気のバロメータとして利用することで、次のヒット曲を探し出すための良い目安となるだろう。ダウンロードされていない楽曲よりも、よりダウンロードされている楽曲の方が人気はあるといえる。そういった曲を、いち早くエアプレイすることでその曲を一般にもヒットさせることも可能となる。
もちろん、リクエストも少なく、ファイル共有ネットワーク上でダウンロードも少ないけれども、その後別の媒体から人気が出てくるということもあるだろう(Silversun Pickupsのようにビデオ共有サイトから火がついて他に波及するとか)し、既にヒットしている曲に関しては、それほど有用ではないかもしれない。しかし、一般にヒットしてないけれども、ダウンロードでは人気がある、というものを選曲できるだけでも十分にその価値はあるだろう。
ただ、確かに有用性はあるものの、そのデータの源泉自体は違法ファイル共有である。Shop Boyzを抱えるUniversal Music Groupも、主にどの楽曲が人気があるか、そして何をラジオ局にかけされるかを知るために、ファイル共有上のデータを利用しているが、やはりこれに関しては複雑な思いがあるらしい。「(調査のために)有効な活動であるということは、(逆に)それだけ問題だということでもある」とビジネス戦略統括長のLarry Kenswilは語っている。
もちろん、違法ファイル共有は違法であり、それに対しては抑制手段を講じなければならないのは事実としてある。ただ、現実としてそこに存在する以上、それを利用しないというのももったいない話である。何とも、良し悪しの判断に困るお話ではあるけれども、より合理的に考えたら、活用するのも有益かなと。
そのような有益さを認めてか、このMediabaseは複数の契約を集めているようで。このデータベースを利用したエアプレイが増えていくことが予想されるけれども、実際のラジオ放送では、どのように紹介されるのだろうね。「違法P2Pファイル共有で人気ナンバー1!」とかいうのかしら?
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