WinMXとかWinnyとか、日本ではろくな扱いを受けていないP2Pですが、海外ではけっこう真面目に議論されてるんですよというブログ。
以下の文章は、TorrentFreakの「No Duty to Secure Wi-Fi from BitTorrent Pirates, Judge Rules」という記事を翻訳したものである。
原典:TorrentFreak
原題:No Duty to Secure Wi-Fi from BitTorrent Pirates, Judge Rules
著者:enigmax
日付:September 12, 2012
ライセンス:CC BY
米国で進行中のBitTorrent訴訟で、オープンWi-Fi運用ユーザにとって画期的な判決が下された。カリフォルニア州北部地区連邦地裁判事ピュリス・ハミルトンは、インターネット加入者が第三者による映画の著作権侵害を防ぐために、自身の無線ネットワークをセキュアにする義務を負わないとする判決を下した。言い換えると、自分が管理するネットワークを介して他者が著作権侵害を行ったとしても責任を問われないということだ。
米国では2年以上にわたって、BitTorrent訴訟が乱発されており、25万を超えるファイル共有ユーザが訴えられている。
このような訴訟を起こす著作権者たちは、通常、IPアドレス以上の証拠を持っていない。そして、IPアドレスを手に入れた権利者たちは、被告の個人情報を得るため、ISPに召喚令状を出すよう法廷に求める。
しかしこうしたやり方は、インターネット料金を支払う人物が、映画や音楽の著作権を侵害したユーザと同一ではない可能性があるという問題を抱えている。これについては、複数の裁判官が、IPアドレスは個人を特定するものではないと指摘している。
著作権者たちは、こうした指摘への反論として、「過失」論を持ち出し、インターネット加入者が管理するネットワークで他者が著作権侵害を起こしたのだとすれば、インターネット加入者に責任があると主張した。この主張が認められれば、たとえ自身が著作権侵害を犯さなかったとしても、権利者に訴えられるようになってしまう。
先週、この種の事件において、インターネット加入者に有利な判決が下された。
この事件は、カリフォルニア連邦地裁において、アダルトビデオ会社AFホールディングスがジョシュ・ハットフィールドという人物に起こしたことで始まった。AFホールディングスは、ハットフィールドが「インターネット接続を管理する義務」を負っていたにもかかわらず、「インターネット接続を管理できなかったことにより、その義務を怠った」と主張した。
その結果として、ハットフィールドは第三者によって行われた著作権侵害に対して責任を負う、とAFホールディングスは主張する。ハットフィールド氏はこれに反論し、第三者による著作権侵害を防止するためにネットワークをセキュアにしなければならないとするAFホールディングスの主張には法的根拠がないと主張した。
ピュリス・ハミルトン判事は、被告側の主張を認める判決を下した。
「AFホールディングスは、ハットフィールドがAFホールディングスの著作権侵害を防止する法的な義務を負うとする主張について、いかなる根拠も示さなかった。また、本法廷は(その主張を支持する)いかなる根拠も持たない」とハミルトン判事は記している。
「ハットフィールドがAFホールディングスとの間に、AFホールディングスの著作権を保護する義務を負う関係にあった事実はなく、何らかの危険性を生み出したことによる過失も認められない。」と続けた。
ハミルトン判事は、AFホールディングスが主張する義務の根拠が欠けていたことに加え、たとえ州法の「人身損害」法によって過失が証明できたとしても、連邦著作権法が優先されるとした。
今回の判決は、今年初めにニューヨークのルイス・カプラン判事が下した判決と類似しているが、より強い判決になったと思われる。特にハミルトン判事は、インターネット加入者は著作権者のために自身のWi-Fiをセキュアにする義務を負うことはないと判断している。
これまで多数のBitTorrent裁判の被告を支援してきた電子フロンティア財団(EFF)は、この判決を歓迎している。
「この判決は、ニューヨークのタブラ判決と共に、インターネット・アクセス・ポイントの法的保護を無視するようなごまかしの法理論は通用しない、という司法からの強いメッセージを著作権者につきつけるものです」とEFFのミッチ・シュトルツは書いている。
「まだ数多くの裁判で、著作権者はこの馬鹿げた法理論を使おうとしている」と彼は続ける。儲かるからとBitTorrentユーザを訴えまくっている多くの権利者たちにとって、この判決は不利に働くだろう。
ほかの裁判でも同様の判決が下されていけば、米国で起こされているこの種の訴訟も近いうちに終わりを告げることになるかもしれない。
昨日、フランス・Hadopi初の有罪判決が下され、妻が違法ダウンロードをした責任を、インターネット接続の契約者である夫が負うと判断されたことをお伝えしたが、米国ではそれとは真逆の判断がなされたことになる。
もちろん、Hadopiでは3回の猶予を与えているとも考えられるし、妻が違法ダウンロードをしていたことを知った上で黙認していた、という点で違いはある。しかし、Wi-Fiをセキュアする義務を負うというのでは、ある種のリテラシーやスキルがなければ使わせないということにもなりかねない。インターネットが今後ますますユニバーサルサービスとしての性格を強めていくことを考えると、そのような義務を負うことのない制度が望ましいように思える。
また、この訴訟自体は、米国で乱発されている和解金目当てのお手軽訴訟でもある。こうした訴訟の一部は法廷の判断によって退けられているが、著作権侵害でボロ儲けするメソッドが固まりつつあるように思える。法定損害賠償制度の負の側面とでも言えそうだ。
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