WinMXとかWinnyとか、日本ではろくな扱いを受けていないP2Pですが、海外ではけっこう真面目に議論されてるんですよというブログ。
以下の文章は、EFF Deeplinksの「Blogging ACTA Across The Globe: Lessons From Korea」という記事を翻訳したものである。
原典:EFF Deeplinks
原題:Blogging ACTA Across The Globe: Lessons From Korea
著者:Heesob Nam / Danny O'Brien (commentary)
日付:January 29, 2010
ライセンス:CC BY
ACTA以後の世界を想像できる国があるとしたら、その1つに大韓民国があげられるだろう。韓国は世界で最も先進的なネットワークを持ちながら、最近では諸外国から強い外圧を受け、より厳格な知財権法を導入している。韓国のデジタル権利活動家団体 IPLeftは、増長しつつある知財権マキシマリストの問題や、オルタナティブな政策提案の研究、提言を行ってきた。同団体のメンバー(前会長)Heesob Namより寄稿されたACTAおよびその他の国際的知財権協定が韓国にもたらす影響について、以下に掲載する。
韓国にとって、ACTAはアンチコモンズ条約である
2008年、我々IPLeftは、韓国政府がACTA交渉に臨むスタンスについての情報を開示するよう要求した。しかし、その開示要求は拒否された。拒否の理由は実に不明確だ。開示すると「諸外国との外交関係に有害な影響をもたらし、国益を酷く損ねることになる」というのだ。
どうすれば「模造品・海賊版」の取引と戦う国際協力への参加が、外交関係に悪影響をもたらすというのだろうか?オープンで透明性のある議論によって、どの国益が損ねられるというのか?しかし韓国政府は、市民社会、一般市民へはこうした閉鎖的な態度をとりつつ、産業団体に対しては交渉の初期段階、少なくとも2007年11月から交渉に関連した情報を提供し、その意見を求めていたことが判明した。
ACTAにおける透明性と開放性は、一部の企業たちにだけ適用される原則にだったのである。知的財産権システムを商業的利益を最大化するための手段とし、そのような知財権システムが及ぼす広範な社会的、文化的、経済的意味にはほとんど関心を示さないという、ごく一部の人々の展望だけが反映されている。その意味で、ACTAの秘密主義はあまりにたちが悪い。
このようにバランスを欠き、偏向したアプローチは、我々がこれまで目にしてきたACTA草案にも吹き込まれている。草案の民事的エンフォースメント、刑事的エンフォースメント、税関取り締まりの章を見ても、手続き的公平性、公正さが欠如している。彼らは、民事、刑事、行政手続きにおけるもう一方の側にいる人々を害するほどに、知財権者の利益を不適当なまでに増大させてようとしている。
インターネットの章に関して提案された規定を見ても、ISPに対し不当な義務を負わせようとしていることが伺える。ISPがユーザの著作権侵害に対して負う責任の範囲は、国内の文化政策の問題であって、貿易問題ではない。関係者間の利益のバランスを慎重にとり、微調整することが必要なのである。貿易交渉者だけが密室で結論を出すことなどできない、地域文化、環境特有の要因がそこに含まれているのだから。
より重要なのは、ISPの責任は、単に著作権保護のためだけに重点が置かれるものではない、ということである。法的拘束力を持つ国際人権法などで宣言されているように、文化的生活への貢献のため、万人の権利の保護とその実現こそが重要なのである。ACTAに対する我々の懸念の1つは、法治主義の法理が骨抜きにされ、公正な裁判を受ける権利、裁判所・法定の前の平等の権利、武器対等の権利、推定無罪とされる権利などの人権に抵触しかねないことである。ACTAは、民事的・刑事的手続きにおいて極めて重大な変更を持ち込もうとしている。しかし、現在提案されたこれら変更は、手続き的公平性、公正さに問題を引き起こし、市民的及び政治的権利に関する国際規約などの国際人権法によって負う韓国の義務を危うくし、我々が憲法において認めている民主主義の価値を徐々に蝕んでいく。
たとえば、日本・米国の共同提案によれば、予備的禁止命令などの全ての暫定的措置は、侵害を疑われた人物への司法当局からの聴取を必要とせずに、実行される可能性がある。「権利者に対する回復不能な損害」や「明確な証拠隠滅の危険性」といった要件すらない。さらに、権利者は実際の損害を示すことなく、さらは実際の損害が過小であっても、予め設定された損害賠償額が与えられることになるかもしれない。手続き的公平性の原則をさらに逸脱しているのが、いわゆる「映画盗撮規定」である。この規定では、劇場内で視聴覚録音録画機器を用い、部分的にでも視聴覚作品のコピーを作ろうとすると、その個人は刑事的に罰せられることになる。このようなバランスを欠いたルールは、推定無罪の原則と直接的に対立するのみならず、フェアユース、フェアディーリング(公正な扱い)の原則を徐々に蝕むものとなる。
国内知財権保護、施行の適切なレベルを決定するためには、国内自治が不可欠となる。韓国の知財法は、1980年代初頭、米国やEUから貿易制裁をちらつかされたことで、かなりの部分が改訂された。こうした経済的な側面からの弾圧により、この30年間、より強固な知財保護に向け、国内に圧力がかけられ続けた。
興味深いことに、韓国でのこうした改革に最も熱心なのは、知財産業ではなく、政府の行政部門である。彼らは特許、商標、著作権の管理権限を要求してきた。彼らにとって、より強固な知財権保護とその施行は、ポジションを強化するための機会であった。終わりの見えない経済的圧力、輸出に依存した国内経済により、この状況が生み出されたのである。問題は、こうした国家主体が国内の新興ビジネスなどよりも強い影響力を持つということである。彼らは知財権を最大化するに足る制度上の権限やリソースを有しているのだから。
こうした権力を背景に、政府機関は韓国にて施行された新たな法律を持ち出し、メキシコ グアダラハラにて現在議論されている問題の規定を支持しようとている。たとえば、特定のオンライン・サービス・プロバイダーに課せられているフィルタリング義務、著作権侵害を繰り返すユーザのインターネットアカウントを停止や抹消し、そうしたユーザに利用されているウェブサイトを停止する権限を文化相が持つ「段階的レスポンス(スリーストライク)」ルールである。消費者保護団体は、そうしたシャットダウン規定は、(現在批准を待っている)米韓自由貿易協定(および付帯文書)に矛盾するものであり、ACTA交渉の期間中、米国によって修正案を押しつけられるものと考えられる。ACTAがそのような規定を基盤として作られ、国際協調の名の下に韓国に持ち込まれることになれば、著作権システムを改革せんとする我々の努力はますます損なわれ、国内レベルでの民主的な政策議論の機会すら失われることになるだろう。
ACTA交渉国の考えとは裏腹に、より強力な刑事的エンフォースメント規定を導入することは、一般市民に予想外の結果をもたらすことになる。韓国では、こうした新たな(訳注:より厳格な)法律を導入したことで、刑事著作権侵害の件数が、2005年から2008年にかけて、14,838件から90,979件へと急増した。そのうち、青少年の犠牲者は2005年の1.9%から、2008年には24%を占めるにまで至っている。
しかし、こうした急増は青少年による著作物の無断使用の急増によるものではない。むしろこれは、刑事的制裁がいかに濫用されているかが示されているのである。韓国著作権法の下では、著作物を無断で再生産、配布する全ての行為に対して、刑事的責任を行使することが可能となっている。刑事的制裁の範囲を広げることで、刑事的エンフォースメントの濫用や誤用・悪用へと突き進んでいくことになるだろう。これはACTAにおいても同様である。ACTAにおいて「意図的な著作権侵害」とされるためには、侵害行為が「商業的規模で」なければならない。しかし、その商業的規模の定義は、非常に大まかに定められており、「経済的な利益を得る直接的でない、または間接的な動機づけ」をも含んでいる。たとえば、1曲の音楽をダウンロードしたとして、刑事罰を科されるという危険性すらはらんでいるのだ。言い換えると、ACTAは、刑事的エンフォースメント規定が世界的規模で悪用される可能性をはらんでいるということである。それも、我々が韓国で目にしている以上のものとして。
韓国では、刑事的制裁が著作権者(主に音楽、映画産業)の代理を務める弁護士にとって、ある種の新たなビジネスモデルとなっている。彼らはインターネットユーザを監視し、疑われたユーザに対して刑事告訴をちらつかせた警告状を送付する。彼らは刑事告訴を行わないことと引き替えに、金銭による和解を求める。刑事的エンフォースメント手続きは、刑事手続きの開始が、著作権者の告訴によってなされるのをいいことに、和解交渉のための手段として、刑事告訴の脅威が利用されている。2008年に起こされた申し立て90,797件のうち、56%は和解に終わっている。
ACTAは、韓国のこうした刑事的エンフォースメント体制を世界中にばらまき、その一方で他の国々の最悪な知財法を押しつけられることにもなりかねない。しかし、それだけが反対する理由ではない。手続き的公平性、公正さ、透明性、バランスを欠いた貿易協定は、模倣品・海賊版拡散防止などではない。それは反コモンズなのである。
こうした韓国の状況は、趙 章恩(チョウ・チャンウン)さんの連載「IT先進国・韓国の素顔」でも語られている。韓国でのスリーストライク法導入の余波について報じている記事なのだが、その余波として
1つは告訴ラッシュだ。著作権者らから委託を受けた法律事務所が、アルバイトを雇ってネット中を検索し、違法ファイルを見つけて手あたり次第訴訟を起こしだした。
韓国のブログでは、ドラマのハイライト場面を編集した動画投稿やモノマネ、芸能人の写真を使ったパロディーなどが盛んに行われていた。放送局側もドラマの宣伝になるとして、ドラマの映像を動画サイトに丸ごとアップロードするようなことをしない限り、黙認していた。
しかし法律事務所のアルバイトの目にひっかかると、そうもいかなくなる。彼らは実績に応じて収入を得ているからだ。訴訟が相次ぐなか、裁判を起こされたくなければ和解金を払えという法律事務所からの要求に怯えて高校生が自殺する事件も起きた。
このような状況にあるという。EFFの記事は、2008年までの統計とその余波についての言及なので、刑事告訴をちらつかせた和解戦略はスリーストライク法(2009年7月23日施行)以前からの問題であったとも思われるが、その施行によりさらに強力な武器を手に入れたとも言える。
さて、メキシコにて開催されていた第7回ACTA会合は29日に終わり、経産省がニュースリリースを公表している。
本会合では、デジタル環境における知的財産権の執行、民事手続、国境措置について有意義な議論を行いました。また、関係国は、広く意見を聞く機会を設けることが重要であるとの共通認識のもと、各国でそのような機会を設け、共同で交渉全体の透明性を高めていく努力をしていくことを確認しました。
まぁ、透明性を高めると言ったところで、以前としてそれぞれの問題について何が議論されたのかは全く明らかにされてはいない。実際には、スリーストライクスキームについての議論がなされていたとのことである。
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