ACTA:デジタルライフの脅威となりうる国際条約が秘密裏に進行中、日本政府も加担

カナダ オタワ大学の法学者マイケル・ガイスト教授によるリークされたEUのACTA関連文書の解説。ACTAとは「模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement)」の略称で、「知的財産権の執行を強化するための新しい国際的な法的枠組」とされている。現在、その内容について各国間の協議が続けられているものの、その中身については秘密主義が貫かれている。これまで多数の個人、団体がその公表を強く求めてきたが、各国ともその詳細を公表してはいない。そうした中、ACTA関連した情報がしばしばリークされているが、議論されている内容はあまりに厳格なものであり、海賊版の取り締まりを超えて、我々の通常の利用にまで大きく影響を及ぼしかねないものが少なくない。

このACTAについて日本の報道で話題に上がることはほとんどないが、注目されていないことが取るに足らない問題であることを意味するわけではない。むしろ、不幸なことにその秘密主義的やり口が功を奏し、わからないから報じられない、という状況にある。

以下の文章は、Michael Geistの「EU ACTA Analysis Leaks: Confirms Plans For Global DMCA, Encourage 3 Strikes Model」という記事を翻訳したものである。構成としては、最近リークされたEUのACTA米国提案に対する評価文書(PDF)にコメントを入れるという形になっている。

原典:Michael Geist
原題:EU ACTA Analysis Leaks: Confirms Plans For Global DMCA, Encourage 3 Strikes Model
著者:Michael Geist
日付:November 30, 2009
ライセンス:CC BY

欧州委員会によるACTAのインターネット関連規定の分析がリークされ、米国がインターネット関連WIPO条約および欧州連合法の拡大するルールを押し通そうとしていることが判明した(欧州共同体(EC)は先週、この文書の存在を認めたが、その公表は拒否している)。この文書は、米国提案への仔細なコメントが記されており、米国がスリーストライク・アウト・ポリシーの促進、世界規模のDMCA(Global DMCA)、著作権侵害の幇助に関する国際的統一ルール、そして国際的なノーティス・アンド・テイクダウンポリシーの確立を求めていることが確認されている。

文書によると、米国提案が7つのセクションからなる。

パラグラフ 1 - 一般的義務 これらは、侵害の拡大を防ぐ迅速な措置としての「効果的エンフォースメント手続き」に重点を置く。この言い回しはTRIPs協定第41条に類似しているが、EUはこれが国際条約規定とは異なり、手続きが公平、公正および/または適正でなければならないとは言及されていない点に注意している。言い換えれば、既存の条約におけるバランスを崩さんとするものである。

パラグラフ 2 - 第三者責任 第三者の責任既定は著作権を重視しているが、EUは、商標やその他の知財権侵害に拡張すべき(しなければならない)であると記している。このセクションの目的は、一部加盟国が「著作権侵害の助長」と呼ぶ問題に関する最低限の国際的統一ルールを作り出すことにある。米国提案には、米国Grokster裁判において確立された「誘因(inducement)」が持ち込まれている。こうしたルールは米国以外にはほとんど存在しない。これは多くの国々(カナダを含む)の国内法に大幅な変更をもたらすと考えられ、EUにおいても、現在のEU法の範囲を超えるものとなる。

パラグラフ 3 - 第三者責任の制限 このセクションは、前セクションで規定されたISPの責任においてセーフハーバールールが適用される条件について説明している。ここには、キャッシングなどの技術的プロセスの除外が含まれている。以前に報告されたように、ACTAはノーティス・アンド・テイクダウンを必須とすることを求めており、これはカナダ法の範囲を超えるものである(現行のEU法についても同様)。さらに、ACTAは明らかにスリーストライク・アウトモデルへの道筋を念頭に置いている。EUの文書では以下のようにある。

EUは、脚注6が、保護された対象の無許諾の保存、転送に対する合理的なポリシーの一例を提示するものと理解する。しかしながら、サブスクリプションまたはアカウントの剥奪の問題は、複数の加盟国で大きな議論を呼ぶ問題ともなっている。さらに、法廷の判断なしにサブスクリプションまたはアカウントを剥奪される問題は、欧州理事会と欧州議会との電気通信パッケージ交渉においても懸念としてあげられている。

パラグラフ 4 - 反回避規定 ACTAは技術的保護手段の反回避規定(デジタル・ロックに対する法的保護)について民事および刑事上の罰則を求めている。EUは、これがインターネット関連WIPO条約の要件ならびに、「加盟国の合理的判断の余地を残す」とするEU法の範囲を超えるものであると明記している。さらにEUは、技術的保護手段の反回避規定と著作権の例外との関連について言及されていないことを強調している。米国の提案は、(複製よりはむしろ)単にコンテンツへのアクセスを保護するだけのTPMについても反回避規定を適用することを求めている。これは、DVDのリージョンコードのような技術の回避に対する保護を含む現在のEU法の範囲すら超えるものである。また、これはカナダ国内法にはない。先ほども推測したが、国際的なDMCAを確立しようとしていることは明らかである。

パラグラフ 5 - 反回避の民事、刑事エンフォースメント このセクションは、反回避ルールにおける民事・刑事規定を求めるものとなっている。インターネット関連WIPO条約にこうした規定はない。反回避規定はさらに、各国がインターオペラビリティ要件(たとえば消費者が購入した楽曲を異なるデバイスでも再生できるようにすること)を確立することを阻害するようデザインされてもいる。これについてEUは、「異なるシステムにおける相互互換性とインターオペラビリティが推奨されなければならない」とするEU法と矛盾すると注意している。そもそもなぜACTA(訳注:模倣品・海賊版拡散防止条約)にこのような規定が盛り込まれるのか?と疑問に思うのも当然のことだろう。

パラグラフ 6 - ライツマネジメント(権利管理)情報の保護 このセクションは、ライツ・マネジメント情報に関する民事・刑事規定についてのもの。

パラグラフ 7 - ライツマネジメント(権利管理)情報の保護の制限

 

要約すると、このEUの分析は先のリークを認めている、ということになる(インターネットのチャプターは5つではなく、7つであったが)。米国がインターネット関連WIPO条約の拡張、世界規模のDMCA、スリーストライク・アウトモデルの促進、インターオペラビリティ指令創設の努力の阻害をACTAに盛り込もうとしているという懸念が確認された。ACTAにより現在のカナダのルールを遙かに超えた変更(先の改正法において求められていたもの比ではない)が要求されれば、現カナダ著作権法が元の姿をとどめないほどに書き換えられることになるかもしれない。こうした外務省の書面による交渉が、ACTAによって要求されるであろう国内法の劇的な変化をもたらすものであるかどうかは、疑問として残る。この新たなリーク情報は、ACTAに関わる各国政府が非を認めるよう求めることを強く後押しする。ACTA文書および条約に関わる政府の評価を公表してこそ、更なる協議への参加が許されるべきである。

もちろん、これは米国からの提案であり、実際のACTAに盛り込まれるかどうかは定かではない。だから、1つの提案を持って批判するものではないと、いつもの私なら考えるのであろうが、ことACTAに関してはそうした発想に至ることはできない。1つの提案であったとしても、その詳細がわからない以上、そうした性質を持つものとして批判せざるをえない。

問題は、我々の生活に大きく影響する規制を検討しているにもかかわらず、批判をかわすために秘密裏に事を進めているということにある。しかも、協議への参加は偏った利害関係者だけに限られ、それ以外の関係者からの声を聞くことはない。

ISPを含むサービスプロバイダの過度の責任負担、スリーストライクポリシーの導入による不利益、技術的保護手段の回避制限など、我々のインターネット利用のみならず、デジタル利用の範囲に至るまで、模造品・海賊版拡散防止の目的を超えて、大きく影響を及ぼす可能性は非常に高いと思っている。

サービスプロバイダへの責任範囲を広めることは、我々が享受するサービスの幅を狭め、経済的負担をも負うことを意味する。

スリーストライクポリシーの導入は、P2Pを利用した違法ファイル共有やアップローダを利用した違法アップロードのみならず、YouTube・ニコニコ動画等ビデオ共有サイトへの投稿、ブログや掲示板への書き込み、画像の掲載、日々のTweetに至るまで、我々がオンラインでパブリックに「表現」できるプラットフォームならどこであっても、監視の対象となり得る。著作権侵害と判断され次第、有無をいわさず削除され、ISP経由で「ワンストライク!」と通告されるかもしれない。さらにいえば、それは個人単位ではなく、世帯単位で蓄積される性格を有する。

技術的保護手段の回避制限については、相互互換性とインターオペラビリティの軽視以外のなにものでもない。同一コンテンツであっても、デバイスごとにお金を支払わせる、という妄想から抜け出せずにいるのだろう。

ACTAについては、被りかねない影響の大きさに見合った注目がなされているとは思いがたい。ともすれば、ほとんど注目されることもなく批准される、またはほぼ変更が不可能な段階での公表ということも考えられる。マイケル・ガイストの主張するように、条約の内容、そしてその各国の評価を公表し、それに対するフィードバックを受けて各国は協議を進めるべきだろう。日本でもACTA交渉についての概要を公表しているが、何の判断もできない形式的なものでしかない。

マイケル・ガイストによるACTAの概要、経緯・背景、そして問題点についてのスピーチをエンベッドしておく。


また、ACTAの問題点については、こちら「第198回:模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)のインターネット関連部分に関するリーク資料: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言」も参照のこと。

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